指導:眞木喜規、ピアノ:陶山薫子
発声練習の後ミサ曲からKyrieを練習。
まず教会旋法のドリア旋法(鍵盤の[D]からレミファソラシドレの白鍵だけで音階を鳴らしてみて下さい)を歌って曲の持つ音階に馴れるところから。
アルトから始まるグレゴリオ聖歌の様なフレーズのフレージングを練習。
KyrieとChristeではフレーズのとり方が少し違ってきますのでそこも工夫しましょう。
発声練習で身体を開いたまま止める練習をしました。フレーズの途中で休符がある場合はそれを活用して下さい。フレーズが途切れず音量が変化している所も緊張感を途切らさずに繋げる事ができますし、休符の持つ緊張感を表現する事ができます。
換気の後、続いて陶山先生のピアノと共にグローリアを練習。
フレーズを自分の歌う音符だけで捉えていると、必ず遅れます。伴奏の部分も含めて身体でリズムとフレーズを覚える様にして下さい。
歌は言葉の繋がりと切れ目が明確でミサ曲のテキストはそれが更に明確です。言葉のグループ化、フレーズと音楽全体をグループ化することで自然なフレーズを作れるようにしてください。
後半は「黙礼」「生きとし生けるもの」を通しました。
通して練習した中で共通の課題について書きたいと思います。
全体として、何度も歌ってきているフレーズも、当たり前に歌うのでは無く、どうすればより伝わるのかを考える段階にあると思います。
音符のリズムだけでなく音楽の元となった詩の言葉の持つリズムとフォルムを、歌声の中でバランスを取りながら再現することが目標です。
歌として歌っていても、聴いている側がそれを自然な言葉として聴こえる様に形にすることです。
そのためには書かれた音符の持っているリズムだけを再現して終わりでは無く、書かれた言葉が話された時のフォルムを自然な形に整える必要があります。
また、より遠くに、人に耳だけでなく心に届けるためには声の大きさでは無く、言葉を発して伝えるための強い意志を感じさせなければいけません。
そのために必要な事はブレスと子音の発音の準備、それらが意思と共にあることです。
これは演劇におけるセリフと全く同じです。
普段の生活でも大切な話をする時にはきっとしっかり言葉を考え、選んで、強い意志を持って話されると思います。声を出す前にそれを感じてみて下さい。
そして、これは以前からの課題ですが、まだまだ12/8拍子や3連符のリズムが歌と伴奏に出てくる場面の苦手が克服できていません。改善したかな、と思っているとまたすぐに元に戻ってしまいます。
皆さんにとって「命よ」はかなり速い曲だという意識があるはずです。たとえば「命よ」では4/4で4分音符が146BPM(1分間に146回)になりますので、8分音符ひとつあたりの音符の速度は2倍になり292BPM(1分間に292回)になります。
一方ゆったりしたテンポに感じられる「あなた」における8分音符の速度を求めると、メトロノームで符点4分音符が80BPM(1分間に80回)の速度です。8分音符では✕3つ分になりますので80×3=240BPMという計算になります。
これは皆さんの想像よりもかなり速いのではないでしょうか。「命よ」の8分音符に近い速度になります。
曲想がゆったりしていても激しくても、音楽の根底には細かな鼓動が続いていて、こうして分析すると、意外な発見があります。
もちろん思ったより速いから急いで歌うという意味ではありません。曲想に合わせる事が大切ですが、ゆっくりな曲だから余裕があるとか速いから難しいといった先入観によって本来の音楽が持っている要素を見誤らないようにしたいものです。
前奏部分をよく聴いて速度感を掴む様にしましょう。
頭拍を揃える、アクセントの拍を狙って歌う工夫をしてみてください。
まずはメトロノームや録音に合わせてリズム読みをすることからです。
曲ごとの注意点としては
「黙礼」からは「命」よ
音を外してリズムで喋る練習。
子音がしっかり聴こえます。音量が増えるごとに歌声にしていく様に。
これも歌の持つ表現のひとつです。
しっかり喋れている時は「いのち」の「ち」がしっかり聴こえてきます。音符の持つ音やリズムを正確に再現するだけでは実現出来ない表現の可能性を信じて欲しいと思います。
「生きとし生けるものへ」から
野辺に
「野辺に」という最初の箇所、もっと意思を感じさせるように。この曲のフレーズが殆ど裏拍から始まっています。
子音の準備が足りないと意思が弱く聴こえてしまいます。ブレスからもっと意思を感じさせるように。
コスモスと少年
Dからの三連符の箇所は先程のメトロノームでいくと三連符一つが258BPMになります。この曲でも最初は頭拍から始まっていませんが、このDからは頭拍からフレーズが始まっています。それゆえ強い表現力を感じさせる箇所でもあります。絶対に遅れないで下さい。言葉と音楽のアクセントを合わせるためにメトロノームに合わせてリズム読みが必要です。
意思を伝えるためには、きっとわかってもらえる、聴いてもらえるという気持ちを持たないことです。
遠くにいて背中を向いている相手を、こちらに振り向かせるくらいのエネルギーを発しなければ舞台からは伝わりません。ですがそれは単に大きな声を出したりすることではありません。
発する言葉に明確な意思を持たせるためには、その言葉の形の息を吸い、相手に伝えるために明確に聞こえるように発する事です。
発語、発音する意思をブレスから作り出さなければ、その場で既に鳴っている音の中に埋もれてしまうからです。
子音も単に強く発音するから聴こえるのではありません。発する音に「意思」が無ければ遠くには届きません。
記録:眞木喜規(指導者)
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